退職金がない会社で働いている。そんな現実に不安を感じていませんか。
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、退職金制度がある企業の割合は74.9%にとどまります。つまり約4社に1社は退職金制度を設けていないのです。
しかし、退職金がなくても老後を豊かに過ごしている人は少なくありません。彼らに共通するのは「習慣」の力です。現役時代からの家計管理、資産形成、働き方の準備、そして情報収集。これらを日常に組み込んでいる人は、退職金の有無にかかわらず、老後の不安を減らすことに成功しています。
この記事では、退職金なしでも老後に困らない人が実践している具体的な習慣を、3つの考え方と5つの行動習慣に分けて解説します。
退職金なしでも老後に困らない人に共通する3つの考え方
老後に困らない人は、お金に対する「考え方」が違います。単に節約するのではなく、長期的な視点で自分の状況を把握し、制度を正しく理解したうえで行動しています。
ここでは、退職金がない前提で安心して老後を迎えるための3つの基本的な考え方を紹介します。
退職金がない前提で必要な老後資金の目安を把握している
老後資金の準備で最初にすべきことは、自分にとって「いくら必要なのか」を具体的に知ることです。漠然と「2,000万円必要」と思い込んでいる人も多いですが、実際の金額は生活スタイルや家族構成によって大きく異なります。
総務省「家計調査報告(家計収支編)2024年」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では月の支出が約25万円、65歳以上の単身無職世帯では約15万円となっています。
一方、収入の柱となる年金について、2024年度の国民年金(老齢基礎年金・満額)の支給額は月額6万8,000円です。厚生年金に加入していた期間があれば、収入や加入期間に応じてさらに上乗せされます。
月の不足額が5万円と仮定した場合、30年間で約1,800万円の取り崩しが必要です。さらに予備費も考慮すると、2,000万円から2,500万円程度を目安として考えておくとよいでしょう。
夫婦2人の老後資金、必要額の一つの目安は2,500万円
退職金がない場合は、この金額を自力で準備する必要があります。まずは「年金収入-生活費」を計算し、自分にとっての必要額を把握することから始めてください。
老後のお金を長期の視点で計画している
老後資金の準備は、時間を味方につけることで格段に楽になります。30歳から準備を始めれば30年間、50歳からでも15年間の猶予があります。この期間の差は、月々の負担額に直結します。
老後に困らない人は、現役時代に「どれくらいのペースで貯めていくべきか」を逆算して考えています。日本FP協会が提供する「家計のキャッシュフロー表」などを活用すれば、将来の収支をシミュレーションできます。
長期視点で計画を立てることで、無理のない準備が可能になります。早く始めるほど選択肢は広がるのです。
年金制度の仕組みを正しく理解している
公的年金は老後の収入の柱であり、その仕組みを理解しているかどうかで将来設計の精度が変わります。国民年金と厚生年金の違い、受給資格期間、繰り下げ受給による増額など、基本的な知識は押さえておきたいところです。
年金を受けとるために必要な資格期間(保険料納付済等期間)は原則として120月(10年)以上です。また、受給開始年齢は原則65歳ですが、66歳から75歳の間で繰り下げることで年金額を増やせます。
増額率(最大84%※1) = 0.7% × 65歳に達した月※2から繰下げ申出月の前月までの月数※3
※1 昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなりますので、増額率は最大で42%となります。
※2 年齢の計算は「年齢計算に関する法律」に基づいて行われ、65歳に達した日は、65歳の誕生日の前日になります。
(例)4月1日生まれの方が65歳に達した日は、誕生日の前日の3月31日となります。
※3 65歳以後に年金を受け取る権利が発生した場合は、年金を受け取る権利が発生した月から繰下げ申出月の前月までの月数で計算します。引用元:年金の繰下げ受給|日本年金機構
ねんきんネットや公的年金シミュレーターを使えば、将来の年金額を試算できます。自分の年金見込額を知り、不足分を把握することが老後準備の第一歩です。制度を正しく理解している人は、必要以上に不安を抱えることなく、計画的に行動できます。
現役時代から実践している家計管理の習慣
退職金がなくても老後に困らない人は、現役時代から家計管理を徹底しています。
- 収支の把握
- 固定費の削減
- 先取り貯蓄
という3つの習慣が、資産形成の土台を作っているのです。
毎月の収支を把握して生活費を一定に保っている
家計管理の基本は、毎月の収支を正確に把握することです。収入に対してどのくらいのお金を使っているかがわかれば、改善策を立てやすくなります。
家計の金融行動に関する世論調査2024年によると、世帯主の年齢が50代で貯蓄2,000万円以上を達成している世帯は全体の17%程度にとどまります。平均値は1,168万円ですが、中央値は250万円と大きな開きがあります。この差を生むのが、日々の家計管理の習慣です。
家計簿アプリを使えば、クレジットカードや銀行口座と連携して支出を自動で記録できます。項目別に使った金額を確認することで、どこに無駄があるかが見えてきます。
老後に困らない人は、生活費を一定に保つことを意識しています。収入が増えても生活水準を上げすぎず、差額を貯蓄に回す。この習慣が長期的な資産形成につながります。
固定費を見直して月1万円以上を貯蓄に回している
固定費の見直しは、家計改善の中でも効果が大きい方法です。一度見直せば継続して節約効果が得られるため、変動費の節約よりもストレスが少なく済みます。
見直すべき固定費の代表例は、住居費、通信費、保険料の3つです。特にスマートフォンの料金プランは見直しやすい項目といえます。大手キャリアから格安SIMに変更するだけで、月に数千円の削減が可能です。年間にすると数万円の節約になります。
通信費が月1万円安くなれば、年間12万円、10年間で120万円の節約につながります。住居費についても、住宅ローンの借り換えや、収入に見合った物件への引っ越しを検討する価値があります。
固定費の削減は「我慢」ではなく「仕組みの最適化」です。一度手間をかけて見直せば、その効果は長期間続きます。
先取り貯蓄と生活防衛資金で家計の土台を作っている
貯蓄が苦手な人におすすめなのが「先取り貯蓄」です。給与が振り込まれたタイミングで一定額を別口座に自動で移す方法で、残ったお金で生活する仕組みを作ります。
勤務先に財形貯蓄制度があれば活用するとよいでしょう。なければ銀行の自動つみたて定期預金や、iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用する方法もあります。給料日の翌日に自動で5万円を積み立てる設定にすれば、1年間で60万円、20年間で1,200万円の貯蓄が可能です。
あわせて、生活防衛資金として6カ月分程度の生活費を確保しておくことも大切です。急な出費や収入減少に備えることで、資産形成を中断せずに続けられます。先取り貯蓄と生活防衛資金、この2つが家計の土台となります。
自分で年金を作るための資産形成の習慣
退職金がない人にとって、自分で年金を作る意識は欠かせません。iDeCoやNISAといった税制優遇制度を活用することで、効率的に老後資金を準備できます。
iDeCoで節税しながら老後資金を積み立てている
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金の準備と節税を同時に実現できる制度です。毎月の掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税で受け取れます。
たとえば、年収500万円の会社員が毎月2万3,000円をiDeCoに拠出した場合、年間の掛金27万6,000円が課税所得から控除されます。所得税と住民税を合わせて年間約5万5,000円の節税効果が見込めます。30年間続ければ、節税だけで165万円以上のメリットがあります。
さらに運用益も非課税のため、通常であれば約20%かかる税金がゼロになります。受け取り時にも退職所得控除や公的年金等控除が適用されるため、一定額まで税金がかかりません。
ただし、原則60歳まで引き出せない点には注意が必要です。老後資金と割り切って積み立てられる人には、有力な選択肢となります。
NISAで非課税の長期積立投資を続けている
2024年からスタートした新NISAは、長期の資産形成に適した制度です。つみたて投資枠と成長投資枠を合わせて年間360万円まで投資でき、非課税保有限度額は1,800万円に拡大されました。非課税期間も無期限となり、より長期的な運用が可能になっています。
NISAの魅力は、運用益に対して通常約20%かかる税金がゼロになること。つみたて投資枠では、金融庁が定めた基準を満たす長期・積立・分散投資に適した投資信託のみが対象となっており、初心者でも始めやすい設計です。
iDeCoと異なり、NISAはいつでも売却して現金化できます。老後資金だけでなく、教育資金や住宅資金など、ライフイベントに応じて柔軟に活用できる点がメリットです。目的を老後資金に定めるなら、途中で引き出さずに長期で運用することが大切です。
長期・積立・分散でリスクを抑える考え方
投資にはリスクがつきものですが、長期・積立・分散の3原則を守ることで、そのリスクを抑えることができます。金融庁も「長期・積立・分散投資」を資産形成の王道手法として推奨しています。
積立投資のメリットは、価格が高いときには少なく、安いときには多く買えること。これにより平均購入単価が平準化され、高値掴みのリスクを軽減できます。分散投資は、複数の資産や地域に投資することで、特定のリスクの影響を限定する効果があります。
そして長期投資。金融庁の分析によると、国内外の株式・債券に20年間積立投資した場合、元本割れする可能性は低くなるというデータがあります。短期的な価格変動に一喜一憂せず、淡々と続けることが成功の鍵です。
定年後も収入を得るための働き方の準備
退職金がない場合、定年後も働くことは現実的な選択肢の一つです。しかし、何の準備もなく定年を迎えると、希望する仕事に就けないこともあります。50代のうちから準備を始めることが重要です。
50代からスキルと経験を棚卸ししている
定年後の仕事は、現役時代の延長線上にあるとは限りません。働いているシニアの多くは、長く勤めてきた会社での仕事を辞め、これまでとは異なる仕事に就いているのが現実です。
そのため、50代のうちに自分のスキルと経験を棚卸ししておくことが大切です。どんな業務を担当してきたか、どのようなスキルを身につけたか、どんな成果を上げたかを具体的に書き出してみましょう。
特に「対人スキル」や「マネジメント経験」は、業種を超えて活かせる強みになります。たとえ同じ会社に残る場合でも、自分の価値を客観的に把握しておくことで、再雇用後の仕事にやりがいを見出しやすくなります。
再雇用・転職・副業など複数の選択肢を持っている
60代以降の働き方には、再雇用、転職、副業など複数の選択肢があります。一つに絞らず、複数のシナリオを想定しておくことで、状況に応じた柔軟な対応が可能になります。
再雇用制度を利用して同じ会社で働き続けるケースは、満足度が比較的高いと感じるようです。年収は2割程度下がることが多いものの、慣れた環境で経験を活かせるメリットがあります。
転職を考えるなら、50代前半のうちに決断することが望ましいでしょう。中小企業は定年制がなかったり、65歳以上まで正社員として働けたりするケースも多く、選択肢として有力です。
副業については、再雇用中から始めておくと将来の独立にもつながります。本業と両立しながら、自分のスキルが社外でどう評価されるかを試すことができます。
健康維持で働ける期間を延ばしている
どれだけスキルがあっても、健康を損なえば働くことはできません。老後に困らない人は、健康維持を「投資」と捉えて日常的に取り組んでいます。
2023年の統計データによると、65歳から69歳の就業率は52.0%、70歳から74歳では34.0%と、過去最高を記録しています。老後も働くという選択が一般的になりつつある中、働き続けるための体力づくりは欠かせません。
適切な睡眠、バランスの取れた食事、定期的な運動。これらを習慣化することで、長く働ける体を維持できます。健康寿命を延ばすことは、「資産寿命」を延ばすことにも直結するのです。
老後の支出を抑える生活スタイルの工夫
収入を増やすことと同じくらい大切なのが、支出を抑えることです。老後に困らない人は、現役時代から生活のダウンサイズを意識し、固定費の最適化に取り組んでいます。
住居費や通信費を老後基準で見直している
老後の支出では、住居費や通信費は大きな割合を占めます。現役時代の収入を基準にした支出を続けていると、年金生活になったときに家計が圧迫されます。
住居費については、持ち家であれば住宅ローンの完済を目標に、賃貸であれば老後の収入に見合った物件への引っ越しを検討します。一般的に、無理なく支払える家賃の目安は手取り収入の30%以内といわれています。
通信費も見直し効果が大きい項目です。大手キャリアから格安SIMに変更するほか、固定電話やインターネット回線もセット割引を活用することで、さらに節約できます。
老後を見据えて早めに見直しておけば、年金生活への移行もスムーズになります。
医療費・介護費の備えとして情報収集をしている
老後には、生活費に加えて医療費や介護費がかかる可能性があります。高齢になるほど医療費は増加し、75歳以上の年間医療費は一人あたり平均約95万円という厚生労働省のデータもあります。
老後に困らない人は、こうした費用について事前に情報収集しています。高額療養費制度、介護保険制度、医療費控除など、利用できる公的制度を知っておくことで、いざというときの負担を軽減できます。
お金をかけずに楽しめる趣味を持っている
老後を豊かに過ごすには、お金をかけずに楽しめる趣味を持つことも重要です。旅行やレジャーにお金をかけすぎると、生活費を圧迫してしまいます。
読書、散歩、園芸、料理など、日常の中で楽しめる趣味は、費用をかけずに充実した時間を過ごせます。地域のサークル活動やボランティアに参加すれば、社会とのつながりも維持できます。
生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」(2025年度)によると、ゆとりある老後生活のための上乗せ費用として、旅行やレジャー、趣味や教養を挙げる人が半数ほどいます。しかし、これらすべてにお金をかける必要はありません。
現役時代から低コストで楽しめる趣味を見つけておくことで、老後の生活満足度を維持しながら支出を抑えられます。
将来の不安を減らす情報収集の習慣
老後の不安は、多くの場合「わからない」ことから生まれます。年金の見込額、制度の仕組み、信頼できる情報源。これらを把握している人は、漠然とした不安を具体的な課題に変え、対策を立てることができます。
ねんきん定期便で年金見込額を毎年確認している
ねんきん定期便は、毎年誕生月に届く年金制度の通知書です。50歳以上になると、60歳まで現在の加入状況が継続した場合の年金見込額が記載されます。この金額を把握することが、老後資金計画の第一歩です。
ねんきん定期便には、65歳から受け取る場合の見込額に加え、70歳・75歳まで繰り下げた場合の試算も記載されています。
50歳未満の場合は、厚生労働省の「公的年金シミュレーター」を使って試算してみましょう。ねんきん定期便の二次元コードからアクセスでき、今後の年収や働き方を変えた場合のシミュレーションも可能です。
年に一度届くねんきん定期便を、捨てずに確認する習慣をつけてください。
繰り下げ受給で受取額を増やす選択肢を検討している
年金の繰り下げ受給は、老後資金を増やす有力な方法の一つです。受給開始を1カ月遅らせるごとに0.7%増額され、75歳まで繰り下げると最大84%の増額になります。
たとえば、65歳時点の年金見込額が月15万円の場合、70歳まで繰り下げると月21万3,000円(42%増)、75歳まで繰り下げると月27万6,000円(84%増)を生涯受け取れる計算です。
ただし、繰り下げにはデメリットもあります。繰り下げ期間中は年金を受け取れないため、その間の生活費を別途確保する必要があります。また、年金額が増えることで社会保険料や税金が上がる場合もあります。
公的機関の情報を基準にして冷静に判断している
老後資金に関する情報は世の中に溢れていますが、すべてが正確とは限りません。老後に困らない人は、金融庁や厚生労働省、日本年金機構など公的機関の情報を基準にして判断しています。
金融庁のNISAガイドブック、厚生労働省の公的年金シミュレーター、日本年金機構のねんきんネットなど、無料で利用できる公的な情報源は多数あります。
SNSや動画サイトの情報を鵜呑みにせず、一次情報で確認する習慣をつけましょう。特に「必ず儲かる」「損をしない」といった断定的な表現には注意が必要です。
冷静に情報を精査し、自分の状況に当てはめて判断する。この習慣が、老後の不安を減らし、適切な行動につながります。
